【一棟収益マンション】賃貸借契約書の引き継ぎと、滞納賃料の精算条項を網羅した売買契約書の作成事例


今回は、大阪府寝屋川市早子町に所在するRC造の一棟収益マンションを事例に挙げ、売買契約書に盛り込むべき具体的な特約条項について解説します。

【事例の概要】寝屋川市駅徒歩圏の一棟収益マンション(全16戸)
  • 対象物件:寝屋川市早子町(京阪本線「寝屋川市」駅 徒歩4分)
  • 物件概要:RC造4階建 一棟収益マンション(総戸数16戸・ワンルーム)
  • 依頼元:大阪市内の仲介業者(元付会社)様
  • 弊所の役割 :物件調査、管理会社ヒアリング、重説・契約書(特約・精算条項)の起案
今回の物件は、全16戸中14戸が入居中(稼働率87.5%)の稼働物件でした。
従前の賃貸借契約書が一部紛失している部屋があること、そして「2世帯で合計3ヶ月分の家賃滞納(未収金)」 が発生しているという事情がありました。これらを曖昧にしたまま決済(引き渡し)を迎えると、買主様との間で必ずトラブルになります。

1. 賃貸借契約書の引き継ぎに関する特約条項
一棟オーナーが変更(オーナーチェンジ)となる場合、新オーナー(買主様)は従前の賃貸借契約をそのまま承継します。
実務上の盲点は、古い物件ほど「当初の契約書原本がない」「更新合意書しか残っていない」「賃料改定の履歴が書面にない」 というケースが多い点です。今回の早子町の物件でも、2戸分の契約書原本が紛失していました。
物件調査会社として、弊所が起案した売買契約書の引き継ぎ特約が下記となります。
【契約書承継・紛失に関する特約条項(実務例)】
第〇条(賃貸借契約の承継等)
  1. 売主は、買主に対し、本物件にかかる別紙「賃貸借条件一覧表」記載の賃貸借契約に基づく貸主としての権利義務一切を、本物件の所有権移転日(以下「決済日」という)をもって買主に承継させ、買主はこれを承継する。
  2. 売主は買主に対し、本物件にかかる賃貸借契約書原本(更新契約書、覚書等を含む。以下同じ)を決済日において引き渡すものとする。
  3. 買主は、〇号室および〇号室について、賃貸借契約書原本が紛失していることを予め容認の上、本契約を締結する。売主は決済日までに、当該住戸の入居者より「現在の賃貸借条件(賃料・共益費・敷金等)」を相互に確認した「賃貸借条件確認書」またはそれに準ずる書面を取得し、買主に引き渡すものとする。

2. 滞納賃料の精算・回収権に関する精算条項
最も揉めやすいのが「決済日時点でたまっている滞納家賃をどう処理するか」です。
原則として、決済日より前の滞納賃料は「売主の債権」、決済日以降の賃料は「買主の債権」となります。
実務上、選択肢は2つあります。
  • パターンA :滞納賃料(債権)を売主に残し、売主が未だに入居者へ督促を続ける。
  • パターンB :滞納賃料(債権)を買主に譲渡し、買主が今後の家賃と一緒に回収する。
今回の寝屋川市の事例では、管理会社が引き続き同じ会社で管理委託を継続すること、また買主様が「今後の良好な賃貸運営のため、前オーナー(売主)が店番に督促にくるような状況を避けたい」と希望されたため、【パターンB:債権譲渡方式】を採用しました。
【滞納賃料の精算・債権譲渡に関する特約条項(実務例)】
第〇条(未収賃料の精算および債権譲渡)
  1. 本物件の賃料等は、決済日を基準として日割精算を行う。
  2. 決済日現在において、本物件の入居者(別紙一覧記載)に滞納賃料等(総額〇〇円)が存在することを買主は確認した。
  3. 売主は買主に対し、前項の滞納賃料等にかかる債権(以下「本件滞納賃料債権」という)を、決済日をもって無償にて譲渡し、買主はこれを譲り受ける。
  4. 売主は、本件滞納賃料債権の譲渡に関し、民法第467条に定める債務者への通知手続き(確定日付のある書面による通知)を、売主の費用と責任において決済後速やかに行うものとする。
  5. 本条による債権譲渡の完了後、売主は入居者に対し、決済日前の滞納分であっても一切の取立てや督促を行ってはならない。
【実務のポイント】
無償で債権譲渡する(=売主が未収家賃を諦める)代わり、売買代金全体の中で利回りや価格の折り合いをつける交渉が裏側で行われるのが一般的です。

3. 敷金の返還債務の引き継ぎ
一棟マンション売買では、入居者から預かっている「敷金(保証金)」の引き継ぎも必須です。
通常は、「敷金の総額」を売買代金(残代金)から差し引いて決済します。
【敷金承継に関する条項(実務例)】
第〇条(敷金の承継および精算)
  1. 売主が本物件の入居者より預かっている敷金または保証金の総額(金〇〇円)にかかる返還債務は、決済日をもって買主が承継する。
  2. 前項の敷金等総額については、決済時における売買代金の残代金支払において差引精算するものとし、売主から買主への直接の現金の授受は行わない。

まとめ:一棟収益の契約書起案は「現状の可視化」がすべて
一棟収益マンションの売買契約は、戸建てや空き家の売買とは異なり、「現在進行形で他人が住んでおり、利害関係が発生している」という特殊性があります。
今回の寝屋川市早子町の事例でも、
  • 賃貸借契約書の有無と、無い場合の代替書面(条件確認書)の取得義務
  • 滞納家賃を「誰が」「どうやって」回収するのか(債権譲渡の有無と通知手続き)
を契約書(特約)に一言一句明記したことで、決済後のトラブルを完全に防ぐことができました。

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