今回は、京都市東山区の具体的な事例を交え、伝統的工法の町家売買で売主様を完全に守り、買主様にも納得してもらうための「実務に忠実な特約文言」と調査のポイントをプロの視点で徹底解説します。
契約不適合責任「完全免責」が機能しない理由
民法上の「契約不適合責任」は、特約で免責にすることが可能です。しかし、以下の2点に抵触する場合、その免責特約は法律上無効、あるいは制限されます。
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売主が知っていて告げなかった事実(民法第572条)
- 売主様が「雨漏りがあること」や「柱がシロアリで腐食していること」を知っていながら買主様に伝えず契約した場合、契約書にどれだけ「完全免責」と書いてあっても免責されません。
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消費者契約法の適用(売主が法人、買主が個人の場合など)
- 売主様が事業者(不動産会社や法人)で、買主様が個人の場合、消費者契約法第8条により、売主の損害賠償責任を完全に免除する条項は無効となります。
したがって、実務上で完全免責を成立させるためには、「物件の不適合(欠陥や法の不準拠)を徹底的に調査・特定し、買主がそれを完全に容認して購入した」という客観的な事実(証拠)を契約書および重説に落とし込む
必要があります。
【実務事例】京都市東山区下河原通の古築京町家
弊社が実際に物件調査および重説・契約書作成をサポートした、具体的な取引事例をご紹介します。
物件概要
- 所在地: 京都市東山区下河原通五条上る下河原町
- 構造・規模: 木造瓦葺2階建(伝統的工法・通り庭型町家)
- 築年数: 不詳(明治中期建築と推測される)
- 接道状況: 前面道路は幅員約2.7メートルの京都市道(建築基準法第42条2項道路に指定)。間口は1.8メートル。
- 売主: 個人(相続により取得、数年間空き家)
- 買主: 個人投資家(リノベーションの上、宿泊施設またはセカンドハウスとして活用予定)
主な物件の「不適合」リスク
- 接道義務の未充足: 間口が2メートル未満のため、そのままでは再建築不可。
- 構造の不適格: 基礎がコンクリートではなく「玉石基礎(石の上に柱が乗っている状態)」であり、現行の耐震基準(建築基準法施行令)を著しく満たしていない。
- 境界の不確認: 隣地との壁が共有(相壁・共同壁)になっており、境界線が建物の中心にあるかどうかが不明瞭。
- 経年劣化: 屋根瓦のズレによる小規模な雨漏り跡があり、床の一部に傾き(沈み込み)が見られる。
実務で使える「完全免責」特約文言案
この物件の売買において、売主様の将来の責任を完全に切り離すために、弊社が設計・提案した売買契約書の特約条項です。
(契約不適合責任の免責および物件の容認)
- 買主は、本物件が明治中期頃に建築された伝統的工法による「京町家」であり、現行の建築基準法、都市計画法その他の関係法令の基準(耐震基準、防火基準、接道義務等を含むがこれらに限られない)に準拠していない既存不適格物件、または建築基準法に適合しない建築物であることを十分に認識し、これを承諾の上で買い受けるものとする。
- 売主および買主は、本物件建物に以下の仕様、不具合および経年劣化が存在することを相互に確認した。
- (ア) 基礎が玉石基礎であり、現行法上のコンクリート造布基礎等ではないこと。
- (イ) 屋根および外壁の一部に過去の雨漏り跡、及びそれに伴う木部の腐食・変色が存在すること。
- (ウ) 建物全体に経年変化による経微な傾き、床の撓み(たわみ)、建具の建て付け不良が存在すること。
- (エ) 隣地(東側・西側)との境界壁が相壁(共同壁)構造となっており、将来の解体や補修において隣地所有者との協議・同意を要する可能性があること。
- 売主は、本物件について、種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの(隠れたる瑕疵を含む)がある場合であっても、一切の契約不適合責任(代金減額請求、損害賠償請求、契約解除、履行の追完請求)を負わないものとする。買主は、本条第2項に記載した事項に加え、本契約締結時に発見されなかった一切の不具合(構造耐力上主要な部分の瑕疵、雨漏り、シロアリの被害、給排水管の故障、土壌汚染等を含むがこれらに限られない)についても、売主に対し何らの請求も行わないものとする。
- 買主は、本物件が建築基準法第43条に定める接道義務を満たしていない(間口約1.8m)ため、原則として建物の建て替え(再建築)が不可能であること、および将来的に増改築や大規模修繕を行う際には、京都市の条例(京都市建築基準条例等)に基づく許可や制限、または建築確認申請が通らないリスクがあることを完全に容認するものとする。
重説・調査実務におけるプロのチェックポイント
契約書に上記のような強固な特約を書くためには、重要事項説明書(宅地建物取引業法第35条)での事前説明が完全に整合していること
が絶対条件です。委託を受ける立場として、以下の調査・記載は外せません。
1. 京都市独自の条例・指定の確認
京都市内では、独自の「京都市京町家の保全及び継承に関する条例
」などが施行されています。物件が「指定京町家」に該当する場合、解体時に届出が必要になるなど、一般の制限以上の制約がかかります。これらを台帳等で必ず確認し、重説の「その他法令上の制限」に明記します。
2. 接道状況の徹底的な現地計測と役所調査
建築基準法上の道路種別(42条2項、43条2項許可等)を建築指導課で確認するのは当然ですが、「間口の実測値」
が非常に重要です。登記簿上や公図上で確認できなくても、現地で測ると2メートル未満であるケースが京町家では頻発します。再建築不可のリスクを「数字」で明確に示します。
3. 「相壁(あいかべ)」の覚書確認
古い京町家は、隣家と柱や壁を共有しているケース(長屋型、または接触型)が多々あります。切り離して解体することが物理的・法律的に困難であるため、過去に隣地間で交わされた覚書がないか、現況がどうなっているかを詳細に記述し、買主に引き継ぎます。
まとめ:トラブルを防ぐのは「曖昧さの排除」
伝統的工法の京町家売買における「完全免責」とは、売主様が何も責任を負わずに逃げ切るための道具ではありません。
「物件が抱える古い建物ゆえのリスクをすべて洗い出し、それを買主様に100%開示して納得してもらうプロセス」
そのものです。
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今回ご紹介した事例のように、不動産取引には机上の空論やひな形の使い回しだけでは防げない「現地を歩き、役所とタフに交渉・確認して初めて分かるリスク」が多数存在します。
特に、
- 【大阪エリアの場合】 狭小密集地や複雑な私道関係、道路種別の判定が絡む
- 【京都エリアの場合】 日本一厳しいと言われる景観条例や高さ制限、埋蔵文化財包蔵地が点在する
- 【特殊・難解物件の場合】 権利関係が複雑な相続案件や、一棟収益、告知義務(心理的瑕疵)が絡む
の取引においては、わずかな調査不足や書類の記載漏れが、売主・買主様との大きなトラブルや損害賠償リスク、ひいては御社の信用失墜に直結しかねません。
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