今回は、京都市上京区・中京区の境界混迷エリアにおける、地積測量図の照合プロセスと筆界特定制度の活用事例を解説します。契約間際に慌てないための、実務的なチェックポイントをまとめました。
1. 事例概要:京都市上京区・油小路通周辺の町家物件
今回、売却に伴う調査依頼をいただいたのは、京都市上京区油小路通下るに位置する木造2階建ての古家(元職住一体の町家)です。
- 登記簿面積:約120平米
- 公図(法務局備え付け地図に準ずる図面):明治期の旧公図がベース
- 現況:両隣の家屋と外壁が数センチ間隔で接している、典型的な「鰻の寝床」
- 地積測量図:昭和40年代の古い図面が1枚のみ存在
委託を受け、まずは法務局にて図面等の資料を取得し、現地へ向かいました。
2. 実務の現場で直面した「3つの罠」
① 公図の形状と現況が全く一致しない
法務局から取得した公図を見ると、対象地はきれいな長方形として描かれていました。しかし現地をレーザー距離計で測定すると、間口が奥に行くにつれて狭まる「台形」に近い形状。
京都の旧市街地では、公図上の並び順と実際の土地の並び順が入れ替わっている(筆の反転・錯綜)ケースすら珍しくありません。
京都の旧市街地では、公図上の並び順と実際の土地の並び順が入れ替わっている(筆の反転・錯綜)ケースすら珍しくありません。
② 昭和40年代の地積測量図の「精度問題」
昭和35年の不動産登記法改正以降、地積測量図の提出が義務化されましたが、古い地積測量図(特に平成5年の三斜測量導入前、あるいは世界測地系導入前)は巻尺を用いた平板測量が多く、精度が非常に低いという特徴があります。
今回の昭和40年代後半の図面に記載された辺長を現地に当てはめても、お隣の基礎や外壁の位置と完全に矛盾していました。
今回の昭和40年代後半の図面に記載された辺長を現地に当てはめても、お隣の基礎や外壁の位置と完全に矛盾していました。
③ 越境物の嵐
京都の旧市街地では、隣地との境界線上に「お互い様」として建てられた古い塀や、軒先・雨樋の越境が日常茶飯事です。現況の見た目だけで境界を判断すると、重説に記載すべき「隠れた瑕疵」を見落とすリスクが高まります。
3. 「地積測量図の照合」ステップ
弊所が重要事項説明書を構築するにあたり、実施した具体的な照合プロセスは以下の通りです。
【法務局資料の収集】公図、地積測量図、隣地の閉鎖登記簿まで取得
↓
【合筆・分筆履歴の追いかけ】
↓
【現地での復元性確認】残された境界標(コンクリート矢印など)を探索
ステップ1:隣地の図面もすべて引く
対象地の一筆だけを見ていては答えが出ません。両隣(北側・南側)および裏手(東側)の土地の地積測量図、さらに過去の分筆・合筆の履歴(閉鎖登記簿)をすべて取得します。
今回は、南側の土地が平成15年に分筆登記を施していることが判明。その際の地積測量図(座標値あり)を基準にすることで、対象地の南側境界のラインを特定するヒントを得ました。
今回は、南側の土地が平成15年に分筆登記を施していることが判明。その際の地積測量図(座標値あり)を基準にすることで、対象地の南側境界のラインを特定するヒントを得ました。
ステップ2:現況図面との重ね合わせ
現地で実測した間口・奥行きのデータと、周辺の比較的精度の高い地積測量図を重ね合わせます。これにより、「どの部分で公図と現況のズレ(収縮・歪み)が生じているか」を視覚的に浮き彫りにします。
4. 筆界特定制度(筆特)の活用と重説への落とし込み
今回の事例では、北側隣地との境界を巡り、過去に口頭でのトラブルがあったことが隣地様へのヒアリングで判明しました。隣地所有者は高齢で、測量への立会いや「筆界確認書」への署名捺印を得るのが極めて困難な状況です。
そこで、仲介会社様へ「筆界特定制度」の活用を提案しました。
筆界特定制度とは?
土地の所有者等の申請により、筆界特定登記官が、外部の専門家(筆界調査委員=土地家屋調査士や弁護士など)の意見を踏まえて、現地の正確な筆界を特定する行政手続です。
隣人の同意(署名捺印)がなくても、法務局が公的な境界線を一刀両断で特定してくれるため、京都の旧市街地のような密集地では非常に強力な解決策となります。
隣人の同意(署名捺印)がなくても、法務局が公的な境界線を一刀両断で特定してくれるため、京都の旧市街地のような密集地では非常に強力な解決策となります。
重説(重要事項説明書)への具体的な記載例
本案件は、筆界特定の申請手続きを進める前提で売買契約を締結するスキームとなりました。弊所が作成した重説の「その他重要な事項」には、以下のように実務的なリスクヘッジを施しました。
【境界および公図と現況のズレに関する特記事項】
本物件の属する地域は、明治期の旧公図を基にした地域であり、公図の形状・辺長と現況の占有状況に相違(ズレ)が見られます。また、昭和46年作成の地積測量図が存在しますが、現地の占有線とは一致しておりません。
現在、北側隣地(〇番〇)との境界について、売主の責任と負担において法務局に対し「筆界特定」の申請手続きを行っております。買主は、本物件が筆界特定の確定前であることを容認の上で購入するものとし、将来的に特定された筆界線と、現在の建物外壁等の位置に相違が生じ、越境物となる可能性があることを予め承諾するものとします。
5. まとめ
京都の旧市街地(上京区、中京区、下京区、東山区など)の物件を扱う際は、「公図や古い測量図は間違っているかもしれない」という前提でスタートしましょう。
- 登記簿上の面積だけで机上査定しない(現況が数平米狭いことはザラです)
- 古い地積測量図があるからと安心せず、作成年と測量方法(三斜か座標か)を確認する
- 隣地との関係性が怪しい場合は、契約前に「筆界特定制度」の利用を視野に入れる
弊所では、こうした京都特有の複雑な土地の歴史や、実務上の判例を踏まえた物件調査・重説作成代行を行っております。
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特に、
- 【大阪エリアの場合】 狭小密集地や複雑な私道関係、道路種別の判定が絡む
- 【京都エリアの場合】 日本一厳しいと言われる景観条例や高さ制限、埋蔵文化財包蔵地が点在する
- 【特殊・難解物件の場合】 権利関係が複雑な相続案件や、一棟収益、告知義務(心理的瑕疵)が絡む
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